『氷道』

身も凍る吹雪の中、僕は一人宛もなく歩いた
数メートル先の街頭すら吹雪で霞むそんな道を
「寒いな」
そう言うと大きく吸い込んだ息を吐き出した
白い息が吹雪の中に溶け消える
自らが憧れ進んで決めた道なのにもう進むのが億劫だ
あともう少しだけ
そう自分に言い聞かせ足を進める

もうどれだけ歩いただろうか
寒さで身体中の感覚が無くなっていた
歩く理由も歩く意味ももう思い出せない
もう歩みを止めてもいいんじゃないか
そんな事を考えながらふと来た道を振り返った

そこにあったのは幼い頃の暖かな記憶
「懐かしいな」
自然と言葉が口から零れる
蜃気楼のような淡い思い出の日々が今でも愛おしい
毎日を必死に背伸びをしながら笑いあっていたあの日々が

僕は再び前を向くと凍てつくアスファルトを踏みしめて一人歩き始める
涙さえ凍るこんな吹雪の中で僕は呪われたようにひたすら歩き続けた
暖かなあの日々を胸に抱きながら

僕は今日も前へと進む
いつか見えるはずの暖かな春を夢見て

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