『【あれはない】』

「愛してるよ、君と結婚したいんだ」

たかが中学生の分際で何を言っているのか…そうあきれながらも顔には出さない

「私も愛してるよ。ありがとう」

愛なんて分りもしないのに軽々しく私は言う。

いつからだったろう。誰かの1番になりたくて、必要とされたくなったのは。
私には姉と妹がいる。社交的で頭が良い姉と、年が離れ可愛らしい顔をした妹。
いつも2人が家で輝いている。私は2人の陰にしかなれない。

姉と違って内向的で地味で影の薄い私。
妹と違って髪も暗くてストレート。口もへの字だ。

家で発する言葉は姉妹にかき消される。

誰かに聞いてほしかった。誰かにこの寂しさを埋めてほしかった。

だから私は恋人を作った。さほど好きでもない、むしろ皆から【あれはない】と言われるような人

【あれはない】から大事にしてくれた。
【あれはない】から私に依存してくれた
【あれはない】から好きにならなかった

いつだって思い通りになって、いつだってお姫様のように扱ってくれる。
私の寂しさを埋めるにはそれで十分だった。

十分だったのに、いつからか寂しさは増した。

いつだって好きになるのは私と正反対の人で
付き合えるのは私と似たような人

拒まず付き合い、気持ちを馬鹿にして別れた

別れるたびに涙をこぼした。

気持ちがあったからか
好きだと本当は思っていたのか

「また私を好きになってくれる人が減ってしまった」

ただの自己愛だった。

【あれはない】と付き合う女神のようだ、とある人は言い
【あれはない】悪魔のような女だ、とある人は言う

馬鹿なことをしたと呟いた
隣には愛を初めて感じた人

前には顔も名前も忘れた男が立っていた

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