『あなたと私の瞳の距離』

今日もまた目が合った。

今日で何日目になるだろう?
あなたと目が合うようになってから。

今日目が合えば、99回目かな?
それとも、100回目?

山手線。
8時5分の東京駅。
電車に乗っている時に合う事はないのに。
丸の内中央口でいつも目が合っている。

少し癖毛の黒髪。
鼻が外人さんみたいに高くて、目はちょっとだけ細め。
肌は白くて運動から縁遠そう。
背は多分180センチをちょっと超えるから。
スーツは黒で、ネクタイはタータンチェック。
余りに目が合うからすっかり覚えちゃった。

あなたと目が合うのはいつも同じタイミングで、たった一度きり。
目が合うとあなたは気まずそうに目を逸らしてオフィス街に消えていく。
その背中はちょっとだけ丸まっていて、猫のように可愛らしい。
猫派の私としてはポイント高いかもね。

自惚れじゃないけど、きっとあなたは私が好き・・・なのだと思う。
断言すると自意識過剰っぽいからしたくない。
でも、それしか考えられない。
私があなたを好きって言いたいけど、それを言ったら負けになるから今は言わない。

毎日目が合う人なんてそうはいないし、それも決まって同じ場所なんて、偶然にしては出来過ぎ。
偶然も100回重なれば運命と呼んでもいいじゃない?
きっと、良いと思う。
良いって思いたいな。

もし、あなたが最高に照れ屋さんなら、しょうがない。
私が一肌脱ぎましょう。

もし、今日あなたと目が合ったら、私はあなたを追い掛けて、言いましょう。

「おはようございます。今日も良い天気ですね」って。

山手線。
8時5分の東京駅。
丸の内中央口。

さあ、あなたは私を見てくれるかしら?

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。