『お祭り騒ぎ』

熱狂か、あるいは狂乱か。
その代償は、あまりにも大きかった。

わたしたちの国は、戦争の真っ只中にいる。
毎日のように爆弾が落ちてくる。
彼らは「パンの配給」だと笑っているが、現にわたしたちの小麦畑は燃やされているし、子どもたちは焼け落ちた田畑をみて泣き叫んでいる。
大人たちは絶望の淵に立たされ、もはや立つ気力もない。

軍靴の音が迫る。
レーン川の東、およそ50マイルには、彼らの軍が迫りつつある。
彼らは人間ではない。
きっと、わたしたちの男どもは無残に殺されるだろう。
女どもも、あるいは。

エルンブルク村に残された人々は、今後どうすべきか悩んでいた。
首都へ逃れようとするものもいた。
しかし、それは同胞たちによって阻まれた。
西へ逃げようとするものもいた。
彼らは、もれなく殺された。同胞たちによって。
わたしたちは、彼らの軍と、同胞たちの手によって、このエルンブルクに閉じ込められている。

およそ70からなる村民たちは、集会場にいた。
あるものは恐怖に震え、またあるものは気が触れてしまい、ぼんやりと空を見つめて笑っている。

村長が口を開いた。
「我々は、彼らに殺されるようなことがあってはならん」
すると、村で唯一の青年が、苦い虫を噛み殺したかのような表情でこう言った。
「村長、ならばどうすればよいのですか。首都へ逃れることはできません。西に逃げようものなら、わたしたちの作った弾で蜂の巣にされます。」
青年は続ける
「同じ民族なのに、同じ仲間なのに。精鋭隊の連中は、わたしたちに銃口を向ける!村長もご覧になったはずだ!ヴァルケン夫妻がどうなったか!」

ヴァルケン夫妻は、最初に西へと逃れようとした家族の名だ。
戒厳線のむこう、鉄条網を潜り抜けようとしたとき、精鋭隊の兵に見つかった。
同胞たちは警告もなしに、機関銃を撃ちはなったという。

ヴァルケン氏は妻と子を庇おうとして、数十からなる弾をその背中に撃ち込まれた。即死だっただろう。
悲しいのは、その妻と子だ。彼女らは腹に弾をうけてしまい、命からがら村へと戻ってきた。
彼女らの出血は酷く、まともな治療もできないこの村では、どうしようもなかった。
8歳の娘は苦悶の表情のまま、息を引き取った。
29の妻は、そのお腹に宿る子を心配しながら、死ねないのだと叫び続けていた。
わたしたちにとっては、忘れようのないことだった。

もはやどうすることもできない。
彼らの軍に、無残に殺されるのは、いやだ。
だが、わたしたちの友人を殺した、精鋭隊の手にかかるのは、もっといやだ。

誰もが、出口のない答えを求めていた。
もはや、どうすることもできないのは、誰しもがわかっていたのだが。
あとは、誰がそれを口にするか、である。

「もし」
不思議と、言葉をこぼしてしまった。
「もし、彼らの軍にも、同胞にも殺されたくない、と思うのならば」
その台詞は言うべきではない、と頭では分かっていた。
しかし、この空気に耐えられなかった。終わりを迎えられるなら、それがどんな結末でもいいと思った。
「わたしたちには、最後の方法があります。」

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