『during "Distiny"』

 「男は怖い生き物」。まだ幼い頃、毎晩のように浴びせられる父親からの暴力に、いつの間にか私の意識にはその感覚が刷り込まれていた。
 男は怖い。嫌い。でも女が好きな訳でも無い。
 色恋沙汰で色めく周りについてなんて行けなくて、いつの間にか十八歳になっていて…。

 ようやく、出来た。こんな私が愛する事の出来る唯一の「異性」。

「…ねえ、好きだよ」
 もう当たり前になった言葉を呟いてみても、今日も変わらず「彼」からの返事は無くて、でも不思議と寂しさも無くて。ほうと息を吐いた私は、「彼」を映す画面を切っていつも通り枕元に置く。
 …三次元で生きる私と、二次元で生きる「彼」。限りなく近くにあるのに、絶対に交わることも無い世界。
 私がどれだけ「彼」を愛しても、「彼」が私を知る事は無くて。私がいくら年を重ねても、「彼」は変わらないまま半永久的に生き続けて。
 …どこまでも一方通行で、独り善がりな恋。そんな事、痛いくらい分かってるけど…それでも譲れないの。私には彼しかいないんだよ。
 私が、初めて「異性」として愛した人。
 どれだけ白い目で見られても、「痛いよ」なんて嘲笑われても…私が「彼」を愛しているのは、紛れもない「現実」だから。

「誰にも渡さないから、ね」
「…次元の壁なんてぶち壊して、ずっと私の傍にいてよ」

 一筋の涙と零れた言葉は、暗い天井を揺蕩ったまま。

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