『プレゼント2』

 あなたは"ギフトボックス"を知っているだろうか?最近、巷で噂の都市伝説だ。いや、正確には実在する殺人鬼である。あまりにも非人道的かつ残虐性の高い手口に報道規制がされているのだ。しかし、今回は禁忌を破り、自分のジャーナリズムに従って真実を記したいと思う。
 "ギフトボックス"はシリアルキラーだ。それは被害者が無作為であることを意味する。出身も性別も年齢も国籍も知り合いも家族構成も髪型も服装も血液型も何もかもが違う。無作為的であるように作為的だ。これが連続殺人であると断定されるのはその手口に他ならない。曰く、まるで「いかに空白のないように死体を箱詰めするか」を競っているよう、だそうだ。つまりこのイカれた殺人者は綺麗な梱包をモットーとしているのである。
 ここからは私が調査の最中に"ギフトボックス"と実際に遭遇してしまった話をしよう。正確に言えば本物と対峙したわけではない。彼が、いや「彼女」が作業している場面に立ち会ってしまったのだ。その瞬間に警察へ通報する暇が無かったことは誰も責められまい。狂人が楽しそうに笑いながら死体を箱詰めする様を横目に電話する余裕はなかった。しかし、たまたま持っていた仕込みカメラがその様子を写していた。読者は自分の目で"ギフトボックス"の姿を確認して欲しい。
[不鮮明だが人型の何者かが箱に手を突っ込んでいる姿が写っている]
 写真が不鮮明であることは謝罪しなければならない。しかし、重ねて緊急事態であり準備が不足していたことを付記させて頂く。そして、何よりも"ギフトボックス"が存在することと、不鮮明な写真からも分かる狂気を感じて欲しい。"ギフトボックス"はプレゼントを開けるあなたを見たがっている。きっとこれからも無作為に殺し、無作為にプレゼントを送り続けるのだろう。プレゼントが喜ばれる、その日まで。

 喫茶でフェイクニュースを書き上げた記者は帰路に着く。チョロいもんだ、というのが彼の感想だった。9割の嘘に1割の真実を混ぜれば馬鹿な読者の大半は騙せる。いや、騙す必要すらない。怖いねーなんて話の種になるだけでいいのだから。家に着くとほぼ同時にチャイムの音がした。引きこもり気味の彼にとって、ネットで注文した物品が届くのは日常のことだったからすぐに扉を開ける。しかしそこには誰も居ない。イタズラか?と部屋に戻って来た所で彼は見覚えのないプレゼントボックスを発見した。それは簡素な箱だったが鮮烈な赤のリボンがプレゼントであることを主張していた。次に目に入ったのは開けた記憶のない窓。狭い部屋を見回しても誰もいないはずだった。彼の心臓の音が高鳴っていた。思い出していたのは自分で書いた記事の文言。"ギフトボックスはプレゼントを開けるあなたを見たがっている"。彼はそこから動けなくなり、そして――

「プレゼント、開けてくれないの?」

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