数字を愛した彼は言った。
私の一番好きな数字はね、『零』なんだ。それは“何もない”ことに対応する基数。“ない”ものが“ある”んだ。矛盾を抱えたこの数字の抱える歪みを、美しいとは思わないか?
綺麗な楕円形のフォルムを持つ数字を指して、歪んだと表現する。面白い話ではあるのだが、些か的外れな回答にも思えた僕はもう一度、先ほどの質問を繰り返した。
すると彼は笑顔で答えた。
『いない』ものを『いる』と言うから“れい”なんだよ。“れい”は在っても『いない』。それが答えだ。
それは実に彼らしい論理であり、結論だった。
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