『じゃがいもの芽』

また買わなくちゃいけない。
大丈夫。早く使い切ればいいのだから。
ヤツ が現れないうちに消費すればいい。
献立はもう考えている。
カレー、味噌汁、バターソテー、
ポテトサラダ。何にだって使える。
ヤツと出会う事はない。大丈夫。
そう言い聞かせて、棚に乗っているじゃがいもを一袋鷲掴みにして、買い物カゴへ放り込んだ。スーパーで食材を買うことが、これほどまでにストレスとなっている主婦が、日本中で何人いるだろうか。
きっと私だけだ。
馬鹿馬鹿しいと思うがダメなのだ。
私はヤツが怖い。恐ろしい。
それでも、私はヤツを避けては通れない。

うちは旦那と7歳の息子ユウタと3人家族。
私は一人息子のユウタがかわいくて仕方がない。ユウタの好物を毎日食卓に並べて、私の料理を「おいしい、おいしい!」と嬉しそうに食べるユウタが本当に愛おしくて、たまらない。旦那もそんなユウタの様子を見て、幸せそうだ。ユウタの為ならどんなことでもしてやりたい。そう思っている。
しかし、私はどうしても我慢できない事がある。私には、この世の中でたった一つ恐ろしくてたまらないものがある。
それは、、「ママー!ただいま!」
元気な声にハッとする。うたた寝をしてしまったようだ。
「おかえりなさい。ユウタ。学校たのしかった?」
「うん!今日はみんなでサッカーしたんだ。ママ、それよりお腹すいた!
おやつある?」
「ドーナツ用意してるけど、宿題をしてからね。終わったら食べていいから。」
「はーい。」少し不満そうだったが、ユウタは宿題をしに自分の部屋へと向かった。私は夕飯の支度を始めなければいけない。またヤツが現れる頃だ。今日は全てを使い切らなければ。今日を過ぎれば、確実にヤツは現れる。台所に立ち、用事を始めてしばらくするとユウタが入ってきた。
「ママ!宿題終わったからドーナツ食べていい?」「いいわよ。どうぞ。」
ユウタは嬉しそうにいただきますと言うと、大きな口でドーナツを頬張る。
「おいしい!」ユウタは食べる事が大好きだ。あまりにも食べるので、肥満にならないか心配したが体質的な理由からか、細いひょろっとした男の子に成長している。
ユウタの好物はじゃがいも。じゃがいもが入っている料理を必ず一品は出すようにしている。我が家のじゃがいもの消費量は尋常ではない気がするが。
ユウタが好きなものだから、と、ついついじゃがいもを使ったレシピを検索してしまう。
今日のじゃがいも料理は、肉じゃが。
じゃがいもを棚から取り出し、洗い、皮を剥く。その時だった。見つけてしまった。ヤツを。なんでもう現れてしまったのか。私のミスだ。棚の奥に転がしてしまい、
このじゃがいもの存在を見落としていた。私の全身に鳥肌が立つ。恐怖で支配される。なにもできない。動けない。手が震える。立っていられない。
私はこいつが怖いのだ。
このじゃがいもの表面に浮き立つ。芽。
じゃがいもの芽が。
とてつもなく恐ろしい。何か生き物の爪のような見かけ。クリーム色をした中心には、ポツッと黒い点。放置すればキノコの胞子のように膨れ上がり、次々に横から生えてくる。まるで生きているかのように。放置されたじゃがいもの表面はヤツで埋め尽くされる。
じゃがいもの芽は膨らみ、拡がり、巨大化する。
これがもし人の体に移ったらどうなるのだろうか。人間の体に憑依して人間にもこのボツボツが現れたら。考えただけで気が狂いそうになる。
慌てて手のひらを確認する。なにも無い。当たり前だ。私はおかしい。
そう思った瞬間、 ポツ。 感触があった。
驚いて手のひらを見る。あった。なんで?私の手のひらに芽が生えた。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。また現れる。ポツ。次は手の甲。ポツ。次は腕。ポツ。次は首。ポツ。頬。ポツ。鼻。ポツポツ。頭皮。ポツポツ。ポツポツ。ポツポツ。ポツポツ。ポツポツ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。誰か助けて。ユウタ。逃げて。
「ママ。どうしたの?ママじゃがいもになっちゃったの?ダメだよ。ほったらかすと芽が生えちゃうんだから。仕方ないね。僕がママのこと今すぐおいしく料理するよ。」ポツポツ。ユウタが包丁を振りかざす。ポツポツポツポツ。もうダメ。ポツポツポツポツ。視界がなくなってきた。ポツポツポツポツ。もうなにも見えない。

まさかの展開にびっくりです、、まさにホラーですね。

ミックジャギーさん コメントありがとうございます!ホラーに仕上がってますでしょうか?勢いで書き上げたので文章に荒っぽさが目立ちますが。。ありがとうございます。

このはさん コメントありがとうございます。私自身、じゃがいもの芽が気持ち悪くてダメなのです笑 小説のネタにならないかなーと思い、書いてみました。

まさかの展開に驚きました。お母さんがしゃがいもの芽になるなんて思いませんでした。 短編小説の勉強になりました。

megumilyさん コメントありがとうございます。文章に粗がありますし、お恥ずかしいです。