『現代創作童話 ツルの恩返し』

ツルがおじいさんとおばあさんの前から姿を消した翌日、おじいさんとおばあさんはそのツルの織った布をどうするべきかを考えた。
おじいさんはツルが恩返しで織ってくれた布は思い出の品なので売りたくないと言ったが、おばあさんはおじいさんの話を聞き入れず、その布を町で売った。そのおかげで多少のお金が手に入った。

数年後、冷夏の影響でおじいさんとおばあさんの住む村ではなかなか植物が育たなかった。そこでおじいさんとおばあさんは、町に食べ物を買いに出かけたが、町でも食べ物が不足していた。それによってモノの値段は高くなっており、おじいさんとおばあさんは少しの食料しか購入することができなかった。

その帰り道、道中で一匹のタヌキがうずくまっていた。
「おい、大丈夫かね?」
おじいさんが声をかけると、タヌキはおじいさんの方を向いた。
「お腹が減って動けなくなってしまいました。何か食べ物を分けてくれませんか?」
「それは可哀想だ。ほれ、これをあげよう」
そう言っておじいさんは先ほど町で買った食べ物の一部をタヌキに分け与えた。
もちろんおじいさんとおばあさんももちろん食べ物に困ってはいたが、それでも優しいおじいさんは目の前で苦しむタヌキのことを見捨てることはできなかった。
「ありがとうございます。これでどうにか生きていけそうです、本当にありがとうございます。」
そう言ってタヌキはおじいさんとおばあさんにお辞儀をした。
おばあさんはすぐにタヌキに家の住所を教えた。
「もし困ったことがあれば、ここにおいで。何か食べさせてあげるから」
そう言ってタヌキと別れた。

そう。おばあさんはツルの恩返しを忘れていなかった。
もしかしたらタヌキも恩返しにやってくるのではないか。そのような打算からおばあさんはタヌキに住所を教えたのだった。

その数日後、おじいさんとおばあさんが家でのんびりお茶を飲んでいると、玄関から「ごめんください」という声が聞こえた。おじいさんとおばあさんが玄関に行ってみると、そこには数日前助けたタヌキの姿があった。そして、そのタヌキの後ろには子ダヌキも二匹くっついていた。
「先日はどうもありがとうございました。実はこの子たちは私の子ではなく親戚の子なのですが、この子たちにも食べ物を恵んでくださることは可能でしょうか?もちろん図々しいのは分かっていますが、この子たちもお腹を空かせているんです。お願いします」
そう言ってタヌキは申し訳なさそうに、頭を下げた。
「それは可哀想じゃ。今すぐ食べれるものを持ってくるからここで待っておってくれ」
そう言っておじいさんが家の奥に行くと、おばあさんはタヌキに向かってこう言った。
「ごめんなさい、私たちも食料に困っているの。だから今回はあげられないわ。帰ってちょうだい」
そう言っておばあさんは玄関の戸を閉めた。おじいさんが食べ物を家の奥からとって戻ってくると、既に玄関にはタヌキの姿はなかった。
「おや、おばあさん。タヌキたちはどこかね?」
「タヌキたちなら私が帰らせました」
「なんじゃと? なぜそんなことをするのかね?」
「あのタヌキ、恩も返さずに、さらに私たちから食べ物をむしり取ろうとしようとしていたのを、おじいさんは気が付かなかったの?」
「おばあさんや、そんなひどいことを言ってはダメじゃ。タヌキたちも困っておるんじゃ。もし今度来たらちゃんと食料を分けてあげなさい」

1週間後、隣の村の知り合いが大金を手に入れたという噂がおじいさんとおばあさんのもとに届いた。
その噂によると、お腹を空かせた子タヌキ二匹と成人タヌキ一匹が隣の村にやってきて、そのタヌキたちに食べ物を恵んであげたら、その数日後タヌキたちがお礼に銀を持ってやってきたとのことだった。
それを聞いたおばあさんはとても悔しがった。一方それを聞いたおじいさんはとても喜んだ。
「よかった。タヌキたちはちゃんとご飯を食べられたんじゃな」
おじいさんはなんと優しい人なのだろうか。おばあさんとはえらい違いである。
その後おばあさんは心を入れ替えて優しくなったという言い伝えがあるが、それが本心なのかそれとも打算的なのかは誰にも分からない。

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