『「人間嫌い」No.31』

都会が嫌になって人が面倒になって郊外に引っ越した。

空気が美味しい、ゆったりと時間が流れる。

筈だった。

新参者の私でも地域に溶け込むようにと、村の集会や行事に参加を促された。

まぁ知り合いも出来るし良いかくらいの気持ちで参加。

寄り合いは毎週ある。

係りも決められ当番で回ってくる。

それ以外にお祭りの準備が大変で、いつも一年かがりなので一年中が祭りのような村。

清掃を通して村の美化、過疎と少子化を是正する為、学校と役所と住人で考える会、IターンUターン事業、ゆるキャラを使った村おこし実行委員。

その他諸々を、村長と役場の職員と学校の先生、住人の総勢15人で持ち回り。

サボると怒られる。

ちょっとでも変な事すると影で噂される。

やり過ぎても、やらな過ぎてもいけない。

程よさを求められる。

なんて面倒なんだ。

嫌になった私は、とうとう村を出た。

貯金叩いて無人島の物件を借りた。

生活に必要なモノは、三日に一回の定期便があるからそれに乗って買いに行くか、電話して漁船が迎えに来てもらうかのどちらかだ。

気楽だ誰もいない。

係りも実行委員も何もない。

自分に一番合っている。

しかし、一つ気付いた事があった。

貯金全部使い果たしたから、もうお金が無い。

仕事も辞めちゃったから収入もない。

サバイバルな生活の始まりだ。

お金は出来るだけ使わない。

お金を出来るだけ作る。

やっと出来たお金でソーラー電池を付ける。

これで電気代はタダになった。

ガスは無いので電気コンロと焼き釜を作りしのいだ。

水は元々の貯水池があってそこからひいているので、水の心配は要らなかった。

トイレ事情は悪い。

肥料を作るが最初は臭くて気が滅入ったが、今は慣れた。

畑を作り貯めたお金でヤギを買い、魚や海産物も取った。

無人島が一番良かった。

しかし、またしかしだ。

折角の独り暮らしも敢え無く終わりを告げてしまった。

どういう事か。

とあるテレビ番組の取材を安請負してしまったのだ。

そのお陰で島民が増えてしまった。

今じゃもう三十世帯ほどが暮らしている。

その中には民宿のようなもので収入を得る者、マリンスポーツで収入を得る者、定年後の第二の人生を謳歌する者、何かの可能性を感じ移住してくる若者たち。

夏になると音楽フェスティバルが開かれるようになった。

綺麗な岩壁も出来た。

毎日定期便が就航するようになった。

宿の数が増えた。

役場も出来た。

道路も整備された。

電気に水道、ガスも通った。

島を車が走り出した。

うんざりだ、だがもうお金が無いから引っ越せない。

するとある時に私の半生について本を出さないかと、ある出版社からお声がかかった。

どうでもいいのだがお金を貰えるので書くことにした。

半年後に書店に並んだ。

凄く売れたらしい。

そしたら色んな雑誌やら出版社からお声がかかり、コラムや詩や小説まで書くようになった。

どれも売れた。

気づいたらお金が沢山あった。

島を出れる。

そのお金を持って島を出たわけだ。

今は執筆活動が忙しい為、もう以前のようなサバイバル生活に充てる時間が無い。

仕方がなく都会に戻る。

最初の内はテレビなどの出演もあり本も売れそれなりの生活を送っていた。

しかしブームはブームだ。

あっという間に私のブームは去った。

多少手元にお金はあったので海外に家を買った。

もちろん日本人がほぼいない所へ。

もうこれで煩わしいのもお別れだ。

数年後、世界の情勢が大きく変わった。

ある日、私の家に軍隊の連中が入ってきた。

私はそのまま連行され牢屋にぶち込まれた。

容疑はスパイ、なんの根拠も無い。

ただ私が日本人であり、今この国が日本と敵対し始めただけだ。

うんざりだ、私はいったい何処に住めば良いのだ。

     ほな!

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