『交換』

死神が鎌を引き摺りながら歩いている。もうすぐ夜になるという時間、死神の目はゆっくりと刈り取るべき魂を探していた。
「日が暮れるまでに魂を一つ……そうでなければ明後日の給料は減給か」
 死神の歩くスピードは少しずつ早くなっていく。ちょうど公園にいる少年を死神が見たとき、少年には確かに死相というものがあった。
「そこの少年……死ぬ前の望みを叶えよう」
 死ぬ直前の願い、それを叶えた対価として死神は人間から魂を刈り取ることが出来る。
「天使を見てみたい」
 少年の無邪気な願いに死神は戸惑いながらも天国へとむかった。
 天使の派遣や死者の魂の誘導を引き受ける役所。明らかに場違いな場所に死神はいた。
「今すぐ人間界に天使の派遣お願いできますかね?」
「無理無理・一週間前には申請してもらわないと……そもそもどうして死神がここに来てるのさ。」
「生活のためだよ!」
 死神と天使がカウンターで言い争う間にも太陽は少しずつ沈んでいく。死神の粘り強い説得が認められたのか、
「じゃあ、この書類を妖精の里に届けてきて。里長から返信の書類を持ってきたらいいよ、後はこっちで調整するから」
 死神は書類を受け取ると物凄い勢いで天国から妖精の里に飛んで行った。
 妖精の里は天国や人間の住む世界とは違い、常に昼間である。時間が確認できないことに焦りを覚えながら里長を探すと、ちょうど里から出ていこうとしていた。
「おい、里長どこに行く?いますぐこの書類の返信を書いてくれ」
「それは無理だよ。これから私はケンタウロスから借りていた斧を返しにいかないといけないんだから」
「それは俺がやるから」
 死神は妖精から奪うように斧を取るとそのままケンタウロスを探しに行った。
 仕事道具である鎌を背中に預け、斧を手に持ちケンタウロスを探していると丘のような場所にケンタウロスはいた。
「ケンタウロスよ、妖精に貸していた斧だ。それでは渡したぞ、さらばだ」
 死神がケンタウロスに背を向けた瞬間に、呼び止められる。
「妖精が相手なら受け取った証明書を書かねばならないでしょう。そうでなければ、彼らは疑います。急いでいるところすみませんが少々お待ち下さい」
 落ち着かないまま、辺りをウロウロしていると既に時間はギリギリだった。
「すいません、インクが切れていました。魔女の所で手に入るので今お金を……もういない」
 死神は魔女と聞くと話を最後まで聞かずに去っていった。
 魔女が住む家の扉をノックすると、魔女がゆっくりと出てきた。後ろには少女が一人倒れている。
「インクが欲しいのだが……」
「金はあるのかい?」
 死神は給料日間際だ。とてもインクを買う程の金を持っていなかった。
「ないなら代わりの物で払ってもらうか。子どもを一人連れてきな」
 死神はどうすればいいか、分からなくなり、今までと比べると遅いスピードで飛び去った。
 当てもなく人間の世界をうろついていると人間の子どもが一人。死神は神に感謝しながらその子どもがいる公園へと行った。
「そこの少年。頼みがあるのだが……」

面白くて一気に読んじゃいました! 『右左、左右』の方も読ませていただきました。 どちらも凝っていてすごく面白かったです!!

ありがとうございます