純文学

  • 檸檬の恋臍美
     私は檸檬だ。檸檬の木に成る、ただの黄色い檸檬。  私が成っているこの木の持ち主は、町の小さな家電屋を継ぎ、細々と営みながら小説家を目指す若い青年である。彼は美丈夫とまではいかないが、澄ん... 続きを読む
  •  サイズの合わないスニーカーの中で、冷えきった爪先が足跡の残った汚い底敷を掻く。  コートを羽織り忘れ、とても寒くて、なかなか足が進まないし、上半身が重い。冷たい酸素に慣れていない肺がぜえぜえ... 続きを読む
  •  ある日、アマガエルが友達を亡くし何日も何日も泣いて悲しんでいたところに、魔女がやって来て言いました 。 「そんなに泣いては綺麗な瞳が台無しになる。どれ、お前さんの涙を止めてやろう」 ... 続きを読む
  • 彼女はよく言っていた。 「わたしの前世は海で死んだ人間」と。 わけを問うと、こう答えが返ってくる。 「海がきらい。特に海の中。下の方に行くほど。海底も。映像や写真を見ると、息が苦し... 続きを読む
  • 美術のレポートを出すために、放課後美術室に向った。 夕日が射し込み、オレンジが室内全体を彩り、そして美しく燃えているように見える放課後の美術室に彼女はいた。 「先生はいないの?」 「職員室... 続きを読む