純文学

  •  僕と兄の関係は明白ではない。会うときはなぜか緊張し、話すときは無意識に会話を通して互いを探り合ってしまう。でも仲は悪くない。足りなかったのはきっと時間だ。お互いを知っているようで、実は全く知ら... 続きを読む
  • 夜の土手に座って、考え事してた。 川向うの集落では、雨降りの夜になると必ず光が漏れて、晴れた夜は雨戸がぴしゃりとしまっている。 川からたつ霧の向こうで、揺らめき瞬き、それはまた蛍のような... 続きを読む
  • ことりと、静かな店内に音が響いた。 銀座の煉瓦造りから、脇道にそれた路地裏にあるこの店は、私が生まれる前からあって、街路建築のレンガと瓦屋根がわずかに見える以外は、外壁いっぱいに古い本が並... 続きを読む
  •  誰かに何かを話す言葉が、本当はいくつもないことを知っている。 「帰りに紫陽花を見に行こうよ、一番好きな花なんだよ」  然り気無く言ってみたけど「あ、それ知ってる」と笑ってくれたこと... 続きを読む
  •  今日はどうしようって思った。インターネットのとあるコンテストに応募していたのだが、最終選考まで行っていたのにダメだった。悲しさや悔しさよりも、ただ、ああ、やっぱりか、という感覚だった。  頑... 続きを読む